3つの扉を前にして、如月ゆりあは姿勢を正す。
手首に巻いた赤いリボンをはずし髪に巻き整える。
そして、懐から人型の札をとりだすと髪を抜き巻き付ける。
準備が整うと、印を結び呪言を唱える。
「オンアボキアビ・・・・・・・・ザン」
目の前には式神が現れ、彼女の手足となって使役されるはずだった。
しかし、甲高い金属音が響き渡ると、式は形をなさずお札は突如、燃え落ちてしまう。
「術が、封じられてるの!?」
彼女が得意とする式神だったが、このダンジョンの内部では、それを封じる結界のような
力が働いているようだった。
(式神が使えないなんて……)
数分後、やむなく彼女は北側の扉を選ぶ。
式神による確認が行えない以上、彼女自身の手で、その先を確認するしかなかった。
扉を開いた先にあった空間、
そこも最初の部屋と同じ、石造りの正方形に区切られている。
しかし、薄暗い魔法照明に照らし出された、その中央には、
ガッシリとした体つきをしたドワーフのような男の姿があった。
四角い身体に四角い顔、短く刈られた赤髪と無精髭。
顔の作りも大ざっぱで、目や口や鼻といったパーツが
適当に取り付けられたようにしか見えない。
男は、両刃の戦斧で武装しており凄みのある目つきをしていた。
「よう、ねーちゃん、女1人でダンジョン探索なんて危ないねぇ」
その四角い丸太のような男は、ゆりあの太ももをジロジロと眺めながら、
話しかけてくる。
「あなたは?」
慎重に問いかけるゆりあに、男は気にした風もなく答えを返す。
「俺の名は、ゴッゾ・オルガーナ。ねーちゃんと同じ冒険者だよ」
そこで一旦言葉を切ってから、再びじろじろとゆりあの身体を見回して続ける。
「変わった格好してるな、東方の出身か?」
「はい、結界師を生業としておりますが、特定の組織には属しておりません」
「そうか、随分と遠くから来たんだなあ」
そう言って破顔すると、にこやかに続ける。
「ちょっとここらで、茶でも飲んで、休憩していかんか?」
笑顔になると、それまでの厳つい印象から一転、親しみやすい雰囲気が、
ゴッゾの周囲を満たす。
男は、湯気をあげる琥珀色の液体の満たされた器を、ゆりあに差し出してきた。
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