賭博の都。
悪徳と放蕩が降り積もり、腐敗と混沌が大樹をなした都市。
この退廃と奢侈の王都を育てたのが“迷宮”だった。

かつては、堕ちたる聖王の威光を恐れられ、
今は悪意と欲望を抱卵する、目には映らぬ異界の生態系。
再び、天空に牙なす日のため微睡む、魔王の胚胞。

無知ゆえに、その深淵を恐れぬ者は、今日も地の底で蠢きつづける。
飽くなき富と栄光を夢見て。

「チッ」
薄暗い魔法照明に照らし出された石室の中央で、
ゴッゾ・オルガーナは苛立ちばかりが募る。
かつては、首領としてちょっとした盗賊団を従えていた自分が、
今はこんな地の底だ。

しかも、儲け話だといって彼をこのダンジョンへ連れ込んだ張本人は、
ゴッゾを利用して、手際よくオーブやアイテムを集めると、
さっさと姿をくらまして、彼だけが迷宮内に取り残された。
「あの野郎、ぶっ殺してやる」

その時、東の扉が重々しい音を立てて開くと、
中から巫女姿の若い女性が姿を現す。
裾の短い袴からのぞく白い両脚が、弱々しい明かりの中で、
より艶めかしく際立って見える。

マジックアイテムが、女の名を冒険者の如月ゆりあだと告げる。
豊かな胸元と女性らしいしなやかなシルエット、そして甘い香の匂い。
（こんな女が、ダンジョン内に独りとは…）
彼は、心の中でひとりごちる。
（俺にも運が向いてきたかな）
彼は、傍らの戦斧に手を伸ばすと、ゆらりと立ち上がる。
無論、この部屋には既に彼が得意とするトラップは設置済みだ。
手抜かりは無かった。