賭博の都。
悪徳と放蕩が降り積もり、腐敗と混沌が大樹をなした都市。
この退廃と奢侈の王都を育てたのが“迷宮”だった。

かつては、堕ちたる聖王の威光を恐れられ、
今は悪意と欲望を抱卵する、目には映らぬ異界の生態系。
再び、天空に牙なす日のため微睡む、魔王の胚胞。

無知ゆえに、その深淵を恐れぬ者は、今日も地の底で蠢きつづける。
飽くなき富と栄光を夢見て。

ダンジョン内部。
その部屋は、珍しく明るく穏やかな魔法照明の光に満たされている。
8メートル四方の石壁に囲まれた、正方形の空間。
部屋の中央には、噴水が設けられ、泉のように清涼な水が湧き出していた。

噴水を囲む石台に腰をおろし、ゆっくりと身体を休めていたリリ。
この場所は、危険なダンジョン内にあって、数少ない安らぎの場であり、
また、また彼女の目的にも合致した理想的な狩り場でもあった。

その時、南側の扉が静かに開く。
そこから、遠慮がちに姿を現したのは１人の僧侶姿の少女。
マジックアイテムが告げる彼女の名は、ファニー・ユニウス・モンデール。
（いらっしゃい、子羊ちゃん）
リリは、心の中で舌なめずりをする。