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プリンセスブレイカーズ
ターン1/ルシフェル・B・オニキス編/ダンジョン内  2010/02/11更新
ルシフェル・B・オニキスは深呼吸をした後、北の扉に手をかけた。
「私の目的は賞金ではないから……。」
所詮は噂……。だけど、今の私にはそれに縋るしかなかった……。


「おはようルッシー。」
「アルト、おはよう。今日もよろしくね。」
そういって、2人は席に着いた。この学校の入学式の時、
席が隣同士だった中で、今ではお互いに掛替えのない存在になっていた。
「そういえば、ルッシーはあの噂聞いた?」
「うわさ?」
そう聞き返すと、アルトはさらにテンションを上げて言ってきた。
「そうそう。あの伝説の賞金ダンジョンの噂よ。」
「伝説というほどでもないと思うんだけど……。ここから馬車で1時間程度だし……。」
正確には、中層への結界が何らかの形で弱まった時に対処できるように、
この学校はあるのだがルシフェル達は知らなかった。
「まぁ、そうなんだけどさ……。
噂によると、あらゆる万病を癒す奇跡の薬草があるらしいのよ。」
「でも、かなり人の手が入っているわ。とりつくされたって可能性もあるじゃない。」
「ルッシーは現実的ね……。でも、中層以降はまだ人の手が入ってないのよ。
そこにいけばきっとあるはずよ。」
「そうかしら……。あ、先生が来たみたい。」
そう言って、私とアルトは姿勢を正した。私の学園生活はいつもアルトと一緒だった。
成績がいいけど消極的な自分と、成績はすぐわないけど活発的なアルト。
正反対な私たちだったけど、私はアルトにいつも助けられていた。
アルトがいなかったら私は、こんなにも笑顔を作ることができなかったと思う。

だけど……悲劇は突然訪れた……。
「アルト!!!」
そういって、私は彼女の寝ているベッドに駆け込んだ。
「病室ではご静かに。」
そんな言葉など無視して、私はアルトに必死に話しかける。
「どうしたの。急に学校休んで、心配してあなたの家に行ったら、今は病院ですって。
どうしたの。大丈夫よね。また一緒に楽しく学校にいけるよね。」
アルトは笑顔で答えてくれた。しかし、なぜか一言もしゃべらない。
「ねぇ。いつもみたいに喋って。平気だよって言ってよ。ねぇ。」
「それは難しいでしょう。」
そう言われたのを聞いて、私は後ろを振り向くと、この病院の院長らしき人がいた。
「どうして、難しいんですか……。」
「彼女の喉はひどい炎症を起こしている。とても声が出せる状態ではない。」
「治らないんですか。それは?」
「今の私たちの力では……無理だ。すまない。」
その言葉によって、辺り一帯に沈黙が広がった……。
「しかし、命を脅かすほどではない。激しい運動を控えれば、今までの生活も充分できる。」
院長先生は、慰めるつもりで言ったのだろうが、それはかえってマイナスな情報であった。
いつも元気いっぱいで活発的だった彼女。その彼女の元気な姿をもう見れないかもしれない。
その日、自宅に帰ってからルシフェルは盛大に泣き明かした。

「まぁ、そうなんだけどさ……。噂によると、あらゆる万病を癒す奇跡の薬草が
あるらしいのよ。」
その言葉を思い出すとともに、ルシフェルは目を覚ました。
どうやら泣き疲れて眠ってしまってたらしい。
親友が言ってた薬草。それがあれば、また一緒にいられると思い、彼女は決意した。
それから、ルシフェルはその噂の薬草を調べた。どうやら、昔は本当に取れていたらしいが、
人の手が入った今では、完全に絶滅してしまったらしいとの記述を見つけた。

「でも、人の手が入ってない中層以降なら、あるかもしれない……。」
しかしそれは、危険な行為であることも意味する。上層の罠は、人の手によるもので、
命が危機に瀕するものは比較的に少ない。しかし、中層以降は、命の危険に関わる。
それでも、親友のあの表情を取り戻せるなら、私はどうなってもかまわない。
ルシフェルはそんな思いを胸に抱きつつ、薄暗い通路をまっすぐ歩き続けた。
今の医療では、どんなに多額のお金をかけても治せない親友の病気。それを治すために……。


ルシフェルは、しばしの回想から立ち戻る。
開いた扉の先、そこも前と同じ無機質な石壁に囲まれた薄暗い空間。
しかし、そこには予想外の先客達の姿がある。

薄汚れた20人近くの子供達。
それも、せいぜい10か12といった年頃の少年ばかりだ。
クォーターエルフであるルシフェルが、実年齢より若く見える事を考えれば、
彼女よりさらに小さな子供達が、こんなダンジョン内に居た事になる。
(ど、どうして?)
予想外の光景に、驚き立ち止まる。

子供達はみな、薄汚れたボロを身にまとい、
とてもまともな生活を送っているようには見えない。
さらに、ルシフェルを見つめる瞳には、明らかな怯えと警戒の色が見え、
比較的、年長の少年がさらに年下の少年達を守るように後ろにやると、
意を決したように、1人が前に進み出てきた。

「い、命だけは許してよ、僕たち何もしないから!」
「え、ええ!?」
突然の命乞いにルシフェルの驚きは、ますます大きくなる。
機先を先んじた少年は、さらにしっかりと言葉を続ける、
「僕たち、人買いにここに連れてこられたんだ!」
すると、さらに隣の少年が言う、
「お、落ちてたオーブ、お姉ちゃんにあげるから、許してください」
そう言うと、少年は掌に載った輝くオーブをルシフェルに見せる。

(どうすればいいの?)
まだ驚きから立ち直れないルシフェルは、なんとか思考をまとめようとする。
(とりあえずこの子達は、人買いに連れてこられた子供で、わたしの事を
怖がってるみたい)
でも、人買いが、わざわざ捕まえた子供をこんな所に放すだろうか?
(そして、オーブを渡すから、見逃して欲しい言っている)
見逃すって、いったい何から?

ルシフェルが、下した決断は……

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所持アイテム
オーブ…1個

行動指定
(薄汚れたボロボロの服。突然の命乞い。人買いにここに連れてこられた。
そして、自分を怖がっている……。
1つ1つは全く関係ないように見える……。でも、絶対どこかでつながっている。)

彼らが嘘を言っているとは、ルシフェルの頭では考えない。
いや、考えられないことであった。
優しく、自己犠牲心が強い彼女が、こんな姿になっている者達を見捨てることなんて
出来る筈がなかった。

(そういえば、なぜオーブを持っているの……。そうか、ここは賞金ダンジョン。
この子達の目的は、おそらく私たちの足止め。
もしくは、あのオーブが何らかの罠になっている筈……。)

この子達が挑戦者の足止めに使われているのはわかった。
では、なんで怯えているのだろうか……。
では、なぜ怯えているのか。なぜ命乞いをしているのか……。
それも充分に推測できる範囲であった。
賞金目的の人間が基本的に来るダンジョンだ。
それほどの力を持っていなくてもこの人数だ。
何もなくても何かあると疑ってしまう人だっている。
そういった考えの人がどういった行動するかは言わずともわかる。

虐殺だ。

おそらくだが、この20人以外にもこういった子どもたちがとらえられていて、
挑戦者の行動を見ているのだろう。
その中で、挑戦者が自分と同世代の人達を殺して、オーブを奪い取っていく様を
見せられていたのだろう。

そして、自分たちの番が回ってきた。その中での生き残りたいという思いは強いはずである。

「お姉ちゃん。オーブあげるから、お願いだから許して。」

そう言ってくる子供をルシフェルは思わず抱きしめた。

「おねえ……ちゃん?」

「大丈夫。私は何にもしないから……。私はあなたたちを傷つけたりしないわ……。」

「おねえちゃん……。」

抱きついている少年の安心したような顔に、他の少年達からも怯えが消えていく。

「よかった……。みんな、私を信じてくれて……。」

ルシフェルは抱きついたままうれし涙を流した。
しばらくして、皆が落ち着いたところで、話を聞いた。

「そうだったの……。辛かったのね……。」

話は、ルシフェルの予想通りのものであったが、それでもルシフェルは涙無しには
聞けなかった。

「ありがとうお姉ちゃん。お礼にこのオーブあげるよ。」

そう言って、少年はオーブを渡そうとする。

「え……。でも……。」

「僕たちの言葉。信じてくれたお礼だよ。お願いだから受け取って。」

そう言われると、受け取らないとかえって心配をかけてしまうことを
ルシフェルは知っていた。

「ありがとうね。それじゃあこのオーブ。大切にさせてもらうから。」

そう言って、ルシフェルは少年からオーブを受け取った。

「……そろそろ、言っちゃうんだね……。」

「うん。私には、助けたい人がいるから……。じゃあね。」

そう言いながら、ルシフェルは西の扉を開いて進んでいった。



「ありがとう……。そして、ごめんなさい……。」

ルシフェルが去って行った方を見ながら、少年の1人は、そうつぶやいた。
ルシフェルに少年が渡したオーブは本物のオーブである。
ただし、この部屋を出て次の部屋に入った瞬間、1度だけ発動する
特殊な呪法がかかっていたのである……。

そうとは知らないルシフェルは今、通路からでて次の部屋に入ろうとしている所であった……。