ルシフェルは深呼吸をした後、北の扉に手をかけた。
「私の目的は賞金ではないから……。」
所詮は噂……。だけど、今の私にはそれに縋るしかなかった……。
「おはようルッシー。」
「アルト、おはよう。今日もよろしくね。」
そういって、2人は席に着いた。この学校の入学式の時、
席が隣同士だった中で、今ではお互いに掛替えのない存在になっていた。
「そういえば、ルッシーはあの噂聞いた?」
「うわさ?」
そう聞き返すと、アルトはさらにテンションを上げて言ってきた。
「そうそう。あの伝説の賞金ダンジョンの噂よ。」
「伝説というほどでもないと思うんだけど……。ここから馬車で1時間程度だし……。」
正確には、中層への結界が何らかの形で弱まった時に対処できるように、
この学校はあるのだがルシフェル達は知らなかった。
「まぁ、そうなんだけどさ……。
噂によると、あらゆる万病を癒す奇跡の薬草があるらしいのよ。」
「でも、かなり人の手が入っているわ。とりつくされたって可能性もあるじゃない。」
「ルッシーは現実的ね……。でも、中層以降はまだ人の手が入ってないのよ。
そこにいけばきっとあるはずよ。」
「そうかしら……。あ、先生が来たみたい。」
そう言って、私とアルトは姿勢を正した。私の学園生活はいつもアルトと一緒だった。
成績がいいけど消極的な自分と、成績はすぐわないけど活発的なアルト。
正反対な私たちだったけど、私はアルトにいつも助けられていた。
アルトがいなかったら私は、こんなにも笑顔を作ることができなかったと思う。
だけど……悲劇は突然訪れた……。
「アルト!!!」
そういって、私は彼女の寝ているベッドに駆け込んだ。
「病室ではご静かに。」
そんな言葉など無視して、私はアルトに必死に話しかける。
「どうしたの。急に学校休んで、心配してあなたの家に行ったら、今は病院ですって。
どうしたの。大丈夫よね。また一緒に楽しく学校にいけるよね。」
アルトは笑顔で答えてくれた。しかし、なぜか一言もしゃべらない。
「ねぇ。いつもみたいに喋って。平気だよって言ってよ。ねぇ。」
「それは難しいでしょう。」
そう言われたのを聞いて、私は後ろを振り向くと、この病院の院長らしき人がいた。
「どうして、難しいんですか……。」
「彼女の喉はひどい炎症を起こしている。とても声が出せる状態ではない。」
「治らないんですか。それは?」
「今の私たちの力では……無理だ。すまない。」
その言葉によって、辺り一帯に沈黙が広がった……。
「しかし、命を脅かすほどではない。激しい運動を控えれば、今までの生活も充分できる。」
院長先生は、慰めるつもりで言ったのだろうが、それはかえってマイナスな情報であった。
いつも元気いっぱいで活発的だった彼女。その彼女の元気な姿をもう見れないかもしれない。
その日、自宅に帰ってからルシフェルは盛大に泣き明かした。
「まぁ、そうなんだけどさ……。噂によると、あらゆる万病を癒す奇跡の薬草が
あるらしいのよ。」
その言葉を思い出すとともに、ルシフェルは目を覚ました。
どうやら泣き疲れて眠ってしまってたらしい。
親友が言ってた薬草。それがあれば、また一緒にいられると思い、彼女は決意した。
それから、ルシフェルはその噂の薬草を調べた。どうやら、昔は本当に取れていたらしいが、
人の手が入った今では、完全に絶滅してしまったらしいとの記述を見つけた。
「でも、人の手が入ってない中層以降なら、あるかもしれない……。」
しかしそれは、危険な行為であることも意味する。上層の罠は、人の手によるもので、
命が危機に瀕するものは比較的に少ない。しかし、中層以降は、命の危険に関わる。
それでも、親友のあの表情を取り戻せるなら、私はどうなってもかまわない。
ルシフェルはそんな思いを胸に抱きつつ、薄暗い通路をまっすぐ歩き続けた。
今の医療では、どんなに多額のお金をかけても治せない親友の病気。それを治すために……。
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