「あ、あなたは……？　私に、一体何の用でしょう？」
目の前に現れた人影に、アムリアは羞恥に頬を染め、
ズタズタにされたドレスから、こぼれる裸身を覆い隠そうと努力する。

かつては戦闘服としても機能したドレスは、
もはや服装としての用を成していない。
むしろ、美しい花を汚し、蹂躙したというイメージがかえって
裸体よりも男たちの情欲を煽り立てることになるだろう。
柔らかで瑞々しい双丘が露になり、ロングスカートは半ばで破り取られ、
簡単に下着がのぞけてしまう。
（こんな格好……耐えられない。　……でも、まだ戦える。
　進まなければ……なりませんわ。）

その時だった。
轟音とともに、爆発するような勢いで背後の扉がひらかれる。
「えっ！？」
アムリアは驚愕に目を見開く。
姿をあらわしたのは、先ほどの部屋で彼女に暴行を働こうとした変態兄弟。
「！！」
恥辱の記憶とともに、あの全身を撫で回される羞恥の感触が
肉体によみがえり、胸の重みの内に甘い疼きの余韻が暴れ始める。
（私、いったい！？）
恐怖と混乱に身動き出来ないアムリア。
（こんな男達に、あ、あんな事を、今後は、最後……まで）

男達が下卑た笑いを顔いっぱいに貼り付けて、
彼女の肢体に手を伸ばそうとした、刹那、
「こっちよ！」
緩やかなブロンドもまぶしい、完璧なプロポーションの女戦士だった。
彼女は、素早く変態兄弟の前に立ちふさがると剣を抜きはなち、
アムリアを背にかばう。
思わぬ援軍の姿に、男達の顔色が変わり身動きを止める。
そして、しばしの沈黙の後……
「チッ」
変態兄弟は、忌々しげに舌打ちをすると部屋から立ち去っていく。
遠ざかる危機の姿に、アムリアは大きく息をはいて緊張を解いた。

アムリアを守った女戦士は、ゆっくりと振り返ると、
アムリア気遣う様子で声をかけてくる。
「わたしはリリ。あなたは？」
「アムリア＝レスティリアと言います。危ない所を助けられました」
「このダンジョンでは本当に気をつけないと。男は女だと思うと襲ってくるわ。」
「ええ、不覚をとました」
アムリアの美貌が、羞恥と屈辱の色に染まる。
（……男の人たちって……あんなに怖いものだったんだ……）
あのおぞましい経験が、彼女の潜在意識に恐怖心を植えつけてしまっていた。
男性への恐怖と忌避。
初めて剥きだしの欲望に晒された貴族の少女の心が、
今にも折れそうなほど軋んだ。

女戦士−リリ−は、こういった場面にも慣れているのだろう、
傷ついた彼女を優しく手当てしてくれた。
「アムリア、あなたは、これからどうするの？」
「……実は、さきほどの男達にオーブを奪われてしまったようなんです」
「あのボボル兄弟に！」
即座に剣を握り直し、変態兄弟を追おうとするリリをアムリアは
慌てて止める。
「ま、待って下さい！　確かにオーブは大切な物です。
　ですが、他人を傷つけてまで……」
そう言い淀む彼女の姿に、リリはそっと肩に手を添え、
柔らかにささやきかける。
「分かったわ。でも、これからそうすればいいか、一緒に考えましょ？」
そう言ってアムリアの隣に腰かけると、そのほっそりとした腰に
優しく手を回した。