長い髪を結え直し肩から背中へと流れるに任せる。
胸元を覆う鎧はこの世界で手に入れたもの。
綺麗で体にフィットする感じが気に入っている。
制服と鎧をちょっと直して腰元の鞘に収まった細い刀を軽く握る。
凛とした波動を手のひらに感じる。
主催者からももらったイヤリングをつけ、そっと首筋に細い指先をあてる。
そのまま瞳をとじて大きく深呼吸。
「いま戦いに赴く我、汝の力欲す。わが身を守る衣として、
邪なるものを貫く刃としてその光、今一度我に力を与えん・・・」
凛とすんだ声にあわせてほのかに蒼い輝きが鞘からこぼれる。
銀色の胸当ては一瞬輝きをまし私の体を優しく包み込んだ。
「・・・さてっと、はりきっていこ♪」
目の前にある扉。北の扉にそのまま歩みをすすめる。
ノブを握りゆっくりと最初の扉をひらいた・・・
扉の向こうに広がっていたのは、最初の部屋と同じ石造りの空間。
薄暗い魔法照明が、陰鬱な光で室内を照らし出し、無機質な石壁が広がっている。
ただ、唯一異なっていたのは、部屋の中央にいくつか棺桶のような
縦長の箱が置かれていた事だった。
「ちょっと、気味悪いな……」
箱のこちら側の面には取っ手が付き、どうやら扉になっているようだった。
藍香は、慎重に箱へと近づき、そっと扉を開けてみると……
「あっ……」
予想外のその内側に、思わず小さく驚きの声をあげてしまう。
縦長の箱の内側は、白い便座の据えられたトイレになっている。
それも内部は明るい照明に照らされて、予想外に清潔な空間が保たれていた。
(ト、トイレだったんだ……)
なんとなく恥ずかしくなって、赤くなる藍香。
彼女の元いた世界でなら、そのまま公衆トイレと呼ばれていた施設そのものだった。
場所がダンジョンの内部だという点を除けば、特に気にするほどの物でもない。
それに、逆にこれから先の事を考えれば、ここで用を済ましておくのも
悪くは無いかもしれない。
(だって、この先……無い、かもしれないんだし)
藍香は、石造りの部屋の中に誰もいない事を、もう1度慎重に確認してから、
縦長の箱の前で立ち止まる。
(ど、どうしよっか?)
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