物語に戻る
プリンセスブレイカーズ
ターン1/ファニー・ユニウス・モンデール編/ダンジョン内
ファニー・ユニウス・モンデールは、扉を開ける前に、装備を点検する。

愛用のメイスは問題なし、長姉から貰った短剣と、次姉からもらったポーションも問題なし。
後はランタンやロープなど細々として物を確認する。
一番重要なオーブは、右手首のバンドに隠してある。
このバンドは二番目の姉で魔術師であるエルザが、魔力を込めて作ったものだ。
見た目は地味だが、魔物の酸や炎からオーブを守り抜くと姉のお墨付きである。
左手首のもバンドがあるが、これは賭博の街で出会った親友、メリッサから貰ったものだ。

こうして皆から貰ったものを見ると、心配をかけさせたことを申し訳なく思う。
ダンジョンの潜ることは、全員が反対した。
2人の姉、一番上の姉で戦士であるローラやエルザやメリッサ、
メリッサの母親で娼婦館のオーナーマダム・タリアンも反対した。
皆の言うとおり無謀だと思う、お金が必要ならマダム・タリアンの店で
娼婦として働いた方が確実だろう。
他の街ならともかく、ここでは娼婦はまっとうな職業の一つだ。
田舎の村にいたときならともかく、今は娼婦に対して偏見など無い。
それでも身を売ることに躊躇いもあるし、故郷に残した恋人のこともある。
そうすると他に大金を稼ぐ方法は、このダンジョンに潜ることしかなかった。
姉2人は売れっ妓であり、田舎に送金してもおつりが出るぐらい稼いでいたが、
将来もそれが続くか分からない。
故郷の田舎は不作続きで、姉達の仕送りで何とかやっていける状態だ。
何かあれば、一家全員で心中するかもしれない。
そうならないために、ファニーは大金を稼ぐ必要があったのだ。

決意を新たに、三つの扉を眺める。
どれも同じもので個性は無い。
主催者から貰ったマジックアイテムの指輪をかざすが、何も反応は無い。
どうやら本当に感で選ぶしかないようだ。
ファニーは、とりあえず正面の北の扉を開けた。


ファニーが扉を開くと、
そこは、最初の部屋とは打って変わった明るい光に満たされている。
部屋の作りその物は、一見目には大差ない。
石造りの無機質な空間と、正方形に区切られた空間。
しかし、まるで真昼のように明朗な魔法照明が輝き、
部屋の隅々にまで光線が行き渡ると、先ほどまで身を置いていた
陰鬱な広間とは天地の差だ。

さらに、ファニーは気づく。
部屋の中央には、石造りの立派な噴水から涼やかに水が吹き上がり、
その傍らの石台には、1人の女戦士が腰掛けている。

驚くほど美しい女性だった。
緩やかなブロンドのロングヘアーと、赤いレザーの鎧が良く似合う。
さらに、完璧に近いプロポーションを誇る、その肢体。
同じ女性であるファニーですら、うっとりとしてしまうほどの
美貌と気品に溢れていた。

「あ、あの……」
思わず気後れしてしまったファニーに、彼女はにっこりと微笑みかける。
「あら、こんな危険な迷宮になんて可愛らしいお嬢さんだこと」
澄んだ音色が楽器のように響く、美しい声。
「ここは……?」
なんと話を切り出せばいいのか、とまどうファニーに、
しかし、彼女は屈託なく語りかけてくる。
「そんなに緊張しないで。私はリリ。あなたと同じ冒険者よ」
「わ、わたしは、ファニー・ユニウス・モンデールです」
ファニーも、あわてて挨拶をかえす。
「ここって、休憩にちょうどいいでしょ。少し休んでたところ、あなたもどう?」
そう誘われるままに、ファニーもリリの隣に腰をおろす。
まだ迷宮に入ったばかりなのに、緊張のせいか、もうかなり疲労したような気がしていた。
「はい、これ」
リリは、自分の荷物から、ちょっとした食料を出して、
ファニーに分け与えてくれる。
彼女は、その近づき難い美貌に反して、ずっと気さくで親切な女性だった。


「……なんていう罠もあるから、あなたも気を付けてね」
「ありがとうございます。リリさん、そんな事まで教えてもらって」
「いいのよ。同じ女だもん、危険な目には遭わせたくないわ」
(リリさんって、まるでお姉さんみたい)
すっかり打ち解けた頃、リリは石台から立ち上がる。
「それじゃあ、あたしもそろそろ行こうかな」
「あ、はい、引き留めたみたいになってしまって、すみません」
「いいのよ、そんな事。あたしも楽しかったし」
そう言って笑うリリの笑顔に、しかしファニーは、
一抹の寂しさを覚えてしまう。
(せっかく、こんな良い人にお会いできたのに……)
思いが表情に出てしまったのだろうか?

「ふふ、それじゃあ、あたしと一緒に来る?」
「え?」
「あなたが、迷惑じゃなければ……だけど」
「い、いいんですか?」
リリの思わぬ誘いに、ファニーの心は浮き立つ。
この危険なダンジョンの中で、ひとりぼっちだったのだ。
そんな不安でいっぱいの時、リリほどの女性がいれば、どれほど心強いだろうか。
彼女の誘いに、ファニーは?

ターン0へ  ターン2へ

所持アイテム
オーブ…1個

行動指定
行動指定ですが、リリの誘いの乗らず、しばらく部屋で時間をつぶした後、
リリがあけた扉へ向かうでお願いします。

誘いに乗らなかった理由は姉達からダンジョン内で簡単に人を信用するなといわれたこと、
田舎の僧院で習った『悪魔は天使の姿でやってくる』という言葉を思い出したからです。

綺麗で親切そうに見えても、実際はどうか分からない。
ダンジョンでは競争者のオーブを奪って自分のものにするものが後を絶たない。
そんなことを姉達や他の元冒険者の娼婦から聞かされたから、
用心のため誘いに乗らないことにした。

リリの後をつけるのは、一度人が通った所なら、比較的安全だと思ったからにしてください。