「俺の名はレオ、今からあんたを孕ませる男だ」
立ち塞がった変態男レオを前にアイリスは思考する。
(随分な自信ですね……
最も、人を変な目で見た上、堂々とあんな宣言するなんて……殿方としては最低ですよ?
……この調子だと同じような事を他の女性にも言いそうですからね。
――なら、一度懲らしめて差し上げます。……覚悟、してくださいね?)
自信満々に自分と同じ魔法の構えをとる男に向けて、
アイリスは厳かに宣告する。
「おイタはメッ…です。…覚悟してください?――《噴火―ボルガノン―》」
つぶやき終わった瞬間、レオの足元の地面が爆発し、火柱が吹き上がる。
(何を考えているかは知りませんが…唯の無謀であればそれでよし、
仮にフェイクだとしても…罠諸共壊すまでです…!)
おまけですよっ…《火炎弾―ファイアボール―》!」
追撃とばかりに高速詠唱化され、瞬時に汲み上げられた魔導式と共に炎の礫が飛び…
着弾した瞬間、大きな爆発が起きる。
爆炎の二つ名が伊達ではないことを示すような、大掛かりな呪文の連発。
「うぉぉおおおおお! 熱ちぃぃぃっ、アチチチチ」
これだけの炎で巻かれたのだ、本気で熱いのだろう。
レオは、目尻に涙を浮かべながら、舞い踊る爆炎の前で転げ回る。
(くっ、ただの魔法学校を出たてのお嬢ちゃんかと思ったら……)
アイリスに屈辱にまみれた敗北を与えるために、
敢えて彼女の得意とする魔法で勝負を挑むつもりだったが、
とても自分の及ぶ所ではないと悟ったレオは、すかさず本来の戦闘スタイルである、
剣と魔法を使い分ける、ハイブリッドに移行する。
決して悪くはない選択だったが、
勢いに乗ったアイリスの前では、いささか遅すぎた。
次々と襲い来る魔法の連発に、防戦に手一杯で、とても反撃に移るような隙はない。
(チッ、ここは撤退するしかねえ)
爆炎の二つ名が伊達ではないことを示すような、大掛かりな呪文の連発。
(これで懲りてくれればいいけど……いえ、懲りるまで容赦する気はないですけどね……。)
炎を操り、相手を追い回しながらアイリスは小さく小さく、ため息をつく。
数分後、あたりにくすぶる煙と、焦げた臭いの中。
「く、くそ……」
レオは、肩で息をしながら立っている。
そんな彼に向かってアイリスは、
「…さて、反省しました? これからはあんなお誘いの仕方はしちゃいけませんよ?」
相手に歩み寄り、めっ、と人差し指を立てる。
「今回は見逃して差し上げますけど……酷い事はダメなんですから、ね?
……もし、それでも悪いことをしたりするようなら……」
しゅぼっ、と立てた人差し指に炎が灯る。
「今度は黒焦げにしちゃいますから…ね?」
にっこり笑っているアイリスの表情。
しかしその背後に怖いものが見えるのは、気のせいでもなんでもないだろう……。
「さすが……未来の、俺の嫁だな」
ちなみに、レオにとって嫁というのは、自分の子を産ます女という程度の意味であり、
特に結婚等、深い考えがあるわけではない。
「あらあら、まだ言いますの?」
レオの減らず口に、アイリスが再び詠唱体勢に入ろうとした時、
「じゃあ、あばよ!」
そう叫んで、身を翻すと背後にあった北向きの扉から隣室へと転がり込んだ。
「くっ」
開いた扉の先で、もんどり打つレオ。
全身のあちこちからはブスブスと煙があがり、我ながら酷い有様だった。
ふと視線をあげると、この部屋には先客がある。
西の扉の前には、獣の毛皮を着た少女が地面に倒れ伏し、その上を
小さな妖精がまとわりついている。
野生児の少女は、頬を上気させながら瞳を恨ませ、明らかに普通の状態ではない。
さらに、東の扉の前に、むっちりとした身体つきの女戦士の姿がある。
(へへっ、ここも女ばかりとは、天国だな)
心の中では、既に敗北から立ち直り、気力を取り戻しつつあるレオだったが。
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