「あ、あなたは……? 私に、一体何の用でしょう?」
目の前に現れたリリの姿に、アムリアは怯えた視線をむける。
彼女は、羞恥に頬を染めズタズタにされたドレスから、
こぼれる裸身を覆い隠そうと懸命に努力している。
かつては戦闘服としても機能したドレスは、
もはや服装としての用を成していない。
むしろ、美しい花を汚し、蹂躙したというイメージがかえって
裸体よりも男たちの情欲を煽り立てることになるだろう。
柔らかで瑞々しい双丘が露になり、ロングスカートは半ばで破り取られ、
簡単に下着がのぞけてしまう。
しかし、そんなアムリアの姿にリリは内心舌なめずりする。
(これはチャンスかもしれない)
その時だった。
轟音とともに、爆発するような勢いでアムリアの背後の扉がひらかれる。
そこに姿をあらわしたのは、大柄なスキンヘッドの双子ボボル兄弟だった。
(なるほど、こいつらの仕業か)
リリは即座に事態を把握すると、すかさずアムリアと男達の間に割って入った。
(ボボルかよ。なに取り逃がしてるんだ。頭まで筋肉か?)
(チッ、オカマやろうか。たく きしょくわりいんだよ!)
(おまえ、逃げられたんだから、獲物は俺だぜ?)
(ケッ、後で分け前よこせよ)
しばしの沈黙ののち、兄弟は渋々といった様子でリリの前から立ち去り、
別の扉へと消えていく。
(うまく追い払えたな)
会心の笑みは表情にはうかべず、心の底から心配そうな女の表情を作り、
床にへたりこんだままのアムリアに向ける。
彼女は、兄弟が姿を消した扉を見つめ、明らかに安堵した様子だった。
「わたしはリリ。あなたは?」
「アムリア=レスティリアと言います。危ない所を助けられました」
「このダンジョンでは本当に気をつけないと。男は女だと思うと襲ってくるわ。」
「ええ、不覚をとました」
アムリアの美貌が、羞恥と屈辱の色に染まる。
(……男の人たちって……あんなに怖いものだったんだ……)
あのおぞましい経験が、彼女の潜在意識に恐怖心を植えつけてしまっていた。
男性への恐怖と忌避。
初めて剥きだしの欲望に晒された貴族の少女の心が、
今にも折れそうなほど軋んだ。
そんな彼女の様子を横目でうかがいながら、
リリは優しくアムリアの傷を治療しながら話しかける。
「アムリア、あなたは、これからどうするの?」
「……実は、さきほどの男達にオーブを奪われてしまったようなんです」
「あのボボル兄弟に!」
驚きの演技はやりすぎず、あくまでも自然に。
日頃から女性を演じているリリにとっては容易い事だった。
即座に剣を握り直し、変態兄弟を追う素振りを見せるリリをアムリアは
慌てて止める。
「ま、待って下さい! 確かにオーブは大切な物です。
ですが、他人を傷つけてまで……」
(ふっ、チョロいもんだな)
ここまで来れば、後一押しかもしれない。
リリは、そっとアムリアの肩に手を添え、柔らかにささやきかける。
「分かったわ。でも、これからそうすればいいか、一緒に考えましょ?」
そのまま彼女の隣に腰かけると、そのほっそりとした腰に優しく手を回した。
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