(うふふ、このお姉さんは、どんな鳴き声をあげるのかしら?)
レベッカは、愛らしい笑みを浮かべ、目の前の獲物クリスタ・マホロ・サナダを
じっくりと吟味する。
彼女にしたがう贄たちの瞳にもまた、蕩けた光がうかんでいた。
クリスタの前に現れた愛らしい姿をした少女。
そして、瞳に穏やかな光を宿した女冒険者達。
その場違いな雰囲気に、ふつうの人間ならあっけなく飲み込まれていたかもしれない。
しかし、クリスタはそうではなかった。
軍人としての経験、そして何より膨大な知識に裏づけられた冷徹な観察眼が、
即座に状況を分析させる。
(このオーブは、集めることで賞金額が上乗せされ、失えばペナルティが与えられる。
つまりは賞金額を増加させるチケットでもあると同時にこのゲームにおける
一種のライフポイント、通常ならば失うわけにはいかない。
それを私に見せるのはなぜだ?オーブの数にかなりの余裕がある?
それとも私のようにこのゲームの参加目的が賞金では無いのか?)
思考すればするほど、違和感ばかりが大きくなっていく。
(先ほど「男に襲われそうになった所を助けてもらったの」と言っていた
オーブはオーブを奪われることもあるし交渉の材料として相手に渡すこともある。
その上賞金の上昇という性質上そう簡単に手に入るものではないはず。)
そう考えると女「達」が差し出せるほどオーブの数というのは、あまりに多すぎた。
(私にこれほどのオーブを見せてまでこのに留らせたいほどの理由、
それはおそらく……罠ッ──────)
一瞬にも満たない間にそれだけの洞察を終えると、即座に行動を開始する。
クリスタは、部屋の隅、中心部の床、その真上の天井、
思いつく限りの魔法の罠の基点を打ち込んで跳ぶ。
すると、女達の表情には、あきらかに動揺の色がうかぶ。
そして、最初に彼女の前に現れた、あの少女からは、あきらかに何か危険な
気配が立ち上りつつあった。
もちろんクリスタは、それを見逃さない。
この危険な部屋からは、一刻も早く脱さなければならない。
しかし、彼女が選んだのは「逃亡」ではなく「前進」。
敢えて、機械の脚に全力での走破を命じる、
そう、彼女のこの調査行は、帝国の命運を背負っているのだ。
ここで、おめおめと『退く』ようなクリスタなら、
そもそも、こんな危険なダンジョンに挑むような事はしない。
「相手の事を知らず相対するのは得策ではない。
だが私は先を目指し目的を達成しなければならない。
ならここは引くのではなく前へ、前へ進むことに希望の光があると見た!」
その決意の声とともに、クリスタは駆け抜ける、そう前へ。
レベッカの眼前には、言葉を失う惨状がひろがっていた。
クリスタの罠によって、つぎつぎと破壊されていく彼女の花園。
贄たちは、狼狽し混乱にますます拍車をかけていく。
「よくも、よくも……!」
レベッカの全身から、怒りの炎がわきたっていく。
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