クリスタの前に現れた愛らしい姿をした少女。
そして、瞳に穏やかな光を宿した女冒険者達。
その場違いな雰囲気に、ふつうの人間ならあっけなく飲み込まれていたかもしれない。
しかし、クリスタはそうではなかった。
軍人としての経験、そして何より膨大な知識に裏づけられた冷徹な観察眼が、
即座に状況を分析させる。
(このオーブは、集めることで賞金額が上乗せされ、失えばペナルティが与えられる。
つまりは賞金額を増加させるチケットでもあると同時にこのゲームにおける
一種のライフポイント、通常ならば失うわけにはいかない。
それを私に見せるのはなぜだ?オーブの数にかなりの余裕がある?
それとも私のようにこのゲームの参加目的が賞金では無いのか?)
思考すればするほど、違和感ばかりが大きくなっていく。
(先ほど「男に襲われそうになった所を助けてもらったの」と言っていた
オーブはオーブを奪われることもあるし交渉の材料として相手に渡すこともある。
その上賞金の上昇という性質上そう簡単に手に入るものではないはず。)
そう考えると女「達」が差し出せるほどオーブの数というのは、あまりに多すぎた。
(私にこれほどのオーブを見せてまでこのに留らせたいほどの理由、
それはおそらく……罠ッ──────)
一瞬にも満たない間にそれだけの洞察を終えると、即座に行動を開始する。
クリスタは、部屋の隅、中心部の床、その真上の天井、
思いつく限りの魔法の罠の基点を打ち込んで跳ぶ。
すると、女達の表情には、あきらかに動揺の色がうかぶ。
そして、最初に彼女の前に現れた、あの少女からは、あきらかに何か危険な
気配が立ち上りつつあった。
もちろんクリスタは、それを見落とさない。
この危険な部屋からは、一刻も早く脱さなければならない。
しかし、彼女が選んだのは「逃亡」ではなく「前進」。
敢えて、機械の脚に全力での走破を命じる、
そう、彼女のこの調査行は、帝国の命運を背負っているのだ。
ここで、おめおめと『退く』ようなクリスタなら、
そもそも、こんな危険なダンジョンに挑むような事はしない。
「相手の事を知らず相対するのは得策ではない。
だが私は先を目指し目的を達成しなければならない。
ならここは引くのではなく前へ、前へ進むことに希望の光があると見た!」
その決意の声とともに、クリスタは駆け抜ける、そう前へ。
数分後、彼女は次の部屋への扉を開いていた。
背後に消えていく、女冒険者達の花園は、
しかし、今はクリスタの手によって混乱の渦中にあった。
幸い、あの少女が彼女を追ってくる気配はない。
安堵ともに、クリスタが目にした光景は……
「なっ、なんだ、これは?」
思わず声が漏れる。
目の前に居たのは、四つん這いになった全裸の男。
男は、全身が筋肉に鎧われドワーフの様な体格をしている。
しかし、彼は何か空中の目に見えない物体を抱きしめる様な仕草をしながら、
盛んに腰を振っている。
(女の園のつづきは、男の宮か!?)
予想もしていなかった異様な状況に呆気にとられていると、
さらに、男はケダモノような吠え声をあげ……
「うっ」
その剥き出しの男根から、おびだたしい量の精液を放っている、
それも尋常な量ではない。
むせかる精臭に眉をしかめるクリスタだったが、彼女の姿に気づくことなく、
男は、さらに空中の見えない何かに挑みかかっていく。
と、その時になって、クリスタは男の側に巫女服姿の女性が立ち、
そんな無様な姿の彼を見下ろしている事に気づいた。
クリスタほどには及ばないにしても、かなりの長身。
さらに、肩下までのばされた漆黒のストレートヘアと赤いリボン。
巫女服におさまった胸のボリュームは、かなりのもので、
そして、短めの袴からは、美しい両足がのぞいている。
美しく巫女に相応しい清楚さを感じさせる女性だった。
しかし、男の異様な姿を見つめる彼女は、瞳を潤ませながら
頬を桜色に染め、熱い吐息を繰り返している様にみえる。
(これは、いったい……)
とまどいながらも、クリスタは思いきって彼女に声をかける事にする。
「すまない、……その、これは君の“趣味”なのか?」
その時だった。
男は、ついに最後の咆哮をあげるとひときわ大きく石畳に白濁を飛ばしきると、
そのままベチャリと汚い音をたて床に倒れ込み、意識を失った。
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