「ううっ、ひっ、はぁ」
苦悦の入り交じった浅い吐息をくりかえす。
身体の内側……とくに、アヌスからは剛肉の感触は容易には消えず、
エルリナの下半身に奇妙な熱を灯しつづける。
「くそっ」
もし彼女が、己の情熱だけを頼りに危険なダンジョンに飛び込んだ、
若輩の冒険者であれば、そのまま心が折れてしまう事もあったろう。
しかし、エルリナには経験という、何よりの武器があった。
これまで、幾度となくくぐってきた死地。
それが、生きるための選択を彼女に選ばせる。
(なんとか、ここから脱出して……)
その時だった。
目の前のオオダコは、ゴポリと音をたてて水中に何かを追う。
見れば、水底に輝くのは、彼女が落としたらしいオーブの輝き。
(くっ、あれが無いと)
しかし、チャンスでもあった。
一時的とはいえ、その生殖本能を満たしたオスが、
宝珠に気を取られている今以外に、危機を脱しうる時はなかった。
エルリナは出来る限り、脱がされた手近な装備を拾い集めると、
そのまま、じりじりと南の扉へと移動をはかる。
そして、その距離が間近まで近づいた時、残された体力を振り絞り、
一気に駆ける。
扉を開くと、かろうじて隣室へと転がりこんだ。
“彼”は獲物が隣室へと逃げ去ったとこを感知はしていたが、
さしたる感慨は抱かなかった。
すでに“目的”は果たした後なのだから。
オスは、できうる限り多くのメスに自らの種を蒔かんと欲す。
そして“彼”もまた、その本能に忠実だった。
巨体をのそりと動かして思考する。
ここで獲物を待ってもいいし、自ら“狩り”にでかけてもかまわない。
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